【抗生物質】ってそもそも何?その意外な歴史~前編~ by 代表の雑談
2026/10/25
はじめに
このところ抗生物質に関する話がよく耳に入ることが多いので、抗生物質についてのお話です。
風邪をひいて病院に行ったとき、歯の治療のあとや手術のあとに、当たり前のように出される「抗生物質」。
とても身近な薬ですが、「そもそもどうやって生まれたの?」「何から作られているの?」と聞かれると、意外と知らないことが多いのではないでしょうか。
今回は前編・後編の2回に分けて、抗生物質の歴史や仕組み、副作用まで、できるだけわかりやすい言葉で解説していきます。
先にお伝えしておきたいのは、抗生物質は決して「悪者」ではなく、命に関わる場面ではなくてはならない、薬だということです。
ただしそれは、あくまで「ここぞという緊急時・必要時」にこそ発揮される力であって、日常的・習慣的に頼るべき薬ではありません。
この「緊急時にこそ価値がある薬」という視点を持ちながら、前編では「歴史」を中心にお届けします。
きっかけは、たった一つの「カビ」だった
抗生物質の歴史は、1928年、イギリスの科学者アレクサンダー・フレミングの、ある「気づき」から始まります。
フレミングは細菌を育てる実験をしていたのですが、たまたまシャーレの中に青カビが紛れ込んでしまいました。
ふつうなら失敗として捨ててしまうところですが、フレミングはその青カビの周りだけ、細菌が死んでいることに気づいたのです。
「このカビには、細菌をやっつける力があるのでは?」
こうして発見されたのが、世界初の抗生物質「ペニシリン」です。
とはいえ、発見されてから実際に薬として人を救えるようになるまでには、実に10年以上もかかっています。
カビから薬になる物質をうまく取り出し、大量に作る技術がなかなか確立できなかったからです。
抗生物質を世界に広めたのは、実は「戦争」だった
ここからが、あまり知られていない意外な話です。
ペニシリンが「発見された薬」から「実際に世界中で使われる薬」へと変わった最大のきっかけは、実は第二次世界大戦でした。
フレミングの発見のあと、イギリスの研究者たちがペニシリンの研究を本格的に進めていたのですが、ちょうどそのタイミングで戦争が始まります。
戦場では、ケガをした兵士が傷口から細菌感染を起こして命を落とすケースが後を絶ちませんでした。
「感染症で死なせない薬」の開発は、まさに戦争を戦い抜くための急務だったのです。
しかし、当時ドイツからの空襲を受けていたイギリスには、薬を大量に作る設備を整える余裕がありませんでした。
そこで研究者たちはアメリカに渡り、アメリカ政府や製薬会社を巻き込んで、大規模な生産体制づくりに乗り出します。
このとき、大量生産の技術開発で大きな役割を果たしたのが、当時はまだ中堅メーカーだった「ファイザー社」でした。
ファイザーが編み出した培養技術のおかげで、ようやくペニシリンを大量に作れるようになったのです。
アメリカ政府はこの技術を他の会社にも使わせ、国をあげての生産ネットワークを作り上げました。
さらに1942年には、アメリカとイギリスの政府が、ペニシリンの研究そのものを「国家機密」に指定します。
注ぎ込まれた研究費は、当時のお金で2400万ドル。これは同じ時期に原子爆弾を開発していた「マンハッタン計画」に次ぐ規模だったと言われています。
つまりペニシリンは、一人の科学者のひらめきだけで世界に広まったのではなく、**国が総力を挙げて取り組んだ、いわば「戦争のためのビッグプロジェクト」**として発展していった側面が、とても大きいのです。
その成果は、1944年の「ノルマンディー上陸作戦」ではっきりと現れました。
このとき運ばれてきた負傷兵の多くが、ペニシリンのおかげで感染症による重症化を免れ、一命をとりとめています。
戦争が終わったあと、この時に作られた生産技術と巨大な製薬産業の基盤は、そのまま平和な時代の医療にも活かされ、抗生物質が世界中の病院で使われるようになっていきました。
「奇跡の薬」に、すでに出ていた警告
抗生物質の普及とともに、実はもうひとつ見逃せない出来事がありました。
発見者のフレミング自身が、1945年にノーベル賞を受賞したときのスピーチで、すでにこんな警告をしていたのです。
「このまま抗生物質を使い続ければ、いずれ薬が効かない菌が現れるだろう」
残念ながら、この予言はその後、現実のものとなっていきます。
抗生物質が広まれば広まるほど、それに負けない「薬剤耐性菌」が世界中で報告されるようになっていったのです。
この耐性菌の問題については、後編で詳しくお話しします。
今、実際に使われている抗生物質は何からできている?
もうひとつ、意外と知られていないのが「今の抗生物質の中身」です。
抗生物質は、もともと自然界にいる微生物(カビや土の中の菌)が、ライバルとなる別の菌をやっつけるために作り出している物質を利用したものです。
これまで薬として使われてきた抗生物質の多くは、土の中にいる「放線菌」という微生物から見つかっています。
ただし「天然のものをそのまま薬にしている」かというと、それは少し違います。
天然のペニシリンなどは、胃酸に弱かったり、効き目が十分でなかったりするため、実際に薬として使うにあたっては、化学的に構造を作り変える工夫が加えられてきました。
さらに近年では、自然界の成分を出発点にせず、最初から化学的に作られた薬もたくさん使われています。
実は、農林水産省の資料でも「今、市販されている抗生物質のほとんどは、すでに完全に化学合成されたものになっている」と説明されています。
つまり、抗生物質は「自然のカビや菌の力を借りて発見された薬」ではあるものの、今実際に私たちが飲んでいるものの多くは、化学の力で作られた薬になっている、というのが実情なのです。
ちなみに、この「化学的に作る」という工程で使われる原料の多くは、医薬品業界で一般的に使われている、石油から作られた化学物質がベースになっています。
天然の菌が作り出した部分に、石油由来の原料を使って人の手で改良を加えたり、あるいは最初から石油由来の原料だけを使って一から組み立てたりする ― これが、今の抗生物質作りの実態です。
もちろんこれは抗生物質に限った話ではなく、多くの合成医薬品に共通することではあります。
抗生物質は、どうやって菌をやっつけているの?
材料がわかったところで、次はその抗生物質が実際にどうやって菌をやっつけているのか、簡単に見ておきましょう。
抗生物質は、細菌だけが持っている「弱点」を狙い撃ちすることで効果を発揮しています。
主なやり方は、次の4つです。
- 菌の「殻」を壊す:細菌には、人間の細胞にはない硬い殻(細胞壁)があります。この殻をうまく作れなくして、菌を壊してしまうタイプです。
- 菌の「体づくり」を止める:菌が増えるために必要なタンパク質を作れなくして、増殖をストップさせるタイプです。
- 菌の「設計図のコピー」を止める:菌が自分をコピーして増えるときに必要なDNAの複製を妨害するタイプです。
- 菌の「膜」を壊す:細菌の表面を包んでいる膜そのものを壊し、中身を漏れさせてしまうタイプです。
いずれも、人間の細胞にはない仕組みだけを狙っているので、菌だけを攻撃して、人間の細胞にはできるだけダメージを与えないよう作られています。
後編では、この「効き方」を踏まえたうえで、実際の医療現場で抗生物質がどう使われているのか、そして副作用やメリット・デメリット、VEBIAの視点からのまとめをお届けします。お楽しみに。
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